生成AIが現場に根付くまで―― 大手金融系SIerとの1年間、Tech Ignitionが見せた伴走支援
大手金融系SIerが抱えていた「レガシー属人化×AI活用推進の停滞」という二重課題に対し、クオンティアのTech IgnitionセクターがPoC設計から現場伴走・全社合意形成まで一気通貫で支援。 「AIを業務として回せるか」をテーマに、約1年で組織のAIリテラシーと推進体制を刷新した事例。
なぜ「AI導入」は止まるのか――金融SIerが直面していた二重の壁
このプロジェクトが始まった背景には、二つの課題が重なっていた。
一つ目は、技術継承のリスクだ。
同社は20以上のレガシーシステムを保守しており、アセンブラやPL/1といった特定言語の知見は、ごく限られたメンバーに集中していた。
設計書等の成果物が整理されておらず現状解析も困難な状態が続くなか、担い手の退職・引退というリスクが現実として近づきつつあった。
「スキルや体制に左右されないマイグレーション」の実現が急務となり、生成AIによるリバースエンジニアリングへの期待が高まっていた。
二つ目は、組織としてAIを動かす仕組みが整っていないという問題だ。
他のベンダーへの相談も試みたが、返ってくるのはソリューションの提案ばかりで、PoC後にどう展開するかを一緒に考えてくれる相手は現れなかった。
現場には、業務のやり方を変えることへの合理的な抵抗感もあった。
評価制度上の手当もなく、新しい取り組みに乗り出す動機が構造的に生まれにくい環境だった。
経営層は「AIを入れないと立つ手がない」という危機感を持ちながらも、現場は懐疑的という温度差が埋まらないまま、検討は止まっていた。
クオンティアへの声がけは、既存のSIパートナーを経由して持ち込まれた。
「上流のコンサルティング思考とAI推進の実績がある」という評価が先行し、課題ヒアリングへの同席から関与がスタートした。
クオンティアが選んだアプローチ――現場に週3回通い、一歩ずつ前に進め続けた1年
Tech Ignitionが最初に決めたことは、「理論上できるか」ではなく、「今の現場制約の中で実際に使えるか」を一緒に追いかけ続けることだった。
PoC設計:3工程に分けてInput/Output/検証Pointを構造化
JITERAを活用したPoCは、
- リバースエンジニアリング
- 設計書からのJavaコード出力
- テスト仕様書生成
の3工程で設計した。
各工程で、
- Input
- JITERA処理内容
- Output
と検証ポイントを定義し、技術的な精度と業務適用の可能性を同時に検証できる構造とした。
「AIでどこまでできるか」ではなく、「この現場でどこまで使えるか」を問いの中心に置いた。
現場への徹底した入り込み:週3回、各レイヤーに向き合い続けた
PoCと並行して、担当であるクオンティアTech Ignitionセクター長の坂井は毎週現場に足を運び続けた。
現場PMとは週2回の定例を設け、執行役員・プロジェクトオーナーのもとへはそれとは別に毎週訪問。
合計で週3回、1年近く各レイヤーと直接向き合い続けた。
結果が出なかったときは「なぜ精度が出なかったのか」を現場担当者と掘り下げ、業務側の視点から改善策を議論する場を毎回設けた。
専門用語を使わず、相手が理解できる言葉に噛み砕いて伝えることを徹底し、クライアント自身がAIの結果を読み解けるよう丁寧に積み上げた。
オンプレ・セルフホスト・SaaSを含む複数パターンを常に提示し、クライアントの制約に合わせて都度最適解を探り続けた。
組織合意形成への先手:毎週ディスカッションペーパーを持参
PoCと並行して、セキュリティ部門・親会社の役員層への接触を自ら進めた。
執行役員とは毎週ディスカッションペーパーを持参して面会し、課題が出現する前の段階で対応方針を議論する場を継続的に設けた。
「本当に先手先手で」動いた結果、通常1〜2年かかるAI環境整備をPoC後の約3ヶ月で突破。
PoC開始時点から1年後の展開計画を描き、壁が来る前に役員と合意しておく設計思想が、プロジェクトを止めずに前進させ続けた原動力だった。
プロジェクトを経て、組織に何が残ったか
約1年の伴走を経て、クライアントの組織には三つの変化が生まれた。
一つ目は、AIに対する認識の転換だ。
当初、現場の担当者はAIに懐疑的だった。
使えるかどうかわからないと距離を置いていた空気が、プロジェクトの後半には変わっていた。
「どうやって横展開しましょうか」と、向こうから歩み寄ってくるようになった。
「試すもの」から「使い続けないと効果が出ないもの」へ——AIに向き合う姿勢そのものが変わったことが、この1年間の最大の成果といえる。
二つ目は、全社的な制度の変化だ。
2026年4月より、全プロジェクトの立ち上げ時にAI活用を明記したプロジェクト計画書の作成が制度化された。
執行役員との合意事項として組織に定着したこの仕組みは、現場単位の取り組みが会社全体の動き方へと引き上げられた証左だ。
三つ目は、関与範囲の拡大だ。
プロジェクトは当初、現場の一部門からスタートした。
それが今、全社のシステム方針を担う上位組織へのアクセスを獲得するまでに至っている。
スコープが組織の上流へと広がりつつある段階だ。
一方で、正直に補足しておくべきことがある。
工数削減やコスト削減といった定量的な成果数値は、現時点ではまだ出ていない。
「AIを使い続ける」文化と体制を作ることが現段階の成果であり、属人化コストの削減やプロジェクト品質の向上は、中長期で検証していく段階にある。
この1年で組織に根付いたのは、特定の技術ではなく、AIを業務の中に組み込んで動かし続けるための土台だ。
「AI定着」を設計できる組織だけが、次の競争優位を持つ
本事例が示す最も重要な教訓は、「PoCが始まってから考える」では遅いということだ。
- 現場への展開
- 全社への浸透
- ガバナンスの整備
これらはPoC後に考え始めると、必ず壁にぶつかって止まる。
AI導入が頓挫する組織の多くは、技術の問題ではなく、進め方の設計が欠けていることが原因だ。
クオンティアのTech Ignitionが担うのは「AI導入支援」ではなく、「組織にAIを定着させる支援」だ。
SI・業務・AI・ガバナンスを同時に理解した上で、クライアントの制約条件を前提に現実解を設計する。
「相談すると、話が抽象論で終わらず、一段具体になる」——そういう存在であり続けることを目指している。
AIの進化スピードは速い。
慎重に進み続ける進め方では、気づいたときには大きく置いていかれるリスクがある。
今この瞬間に「使い続ける組織」の土台を作れるかどうかが、次の競争優位を分ける。
AUTHOR
坂井 僚介
Tech Ignition セクター長
大手コンサルティングファームで大規模システム開発・金融BPR・要件定義に従事した後、中堅コンサルティングファームにて官公庁基幹システムのリバースエンジニアリングおよび構想策定を担当。現在はTech Ignitionセクター長として、生成AI・セキュリティ領域を中心にセクター運営を担う。
専門領域:生成AI/セキュリティ/システム開発/要件定義/PJ組成/新規事業立ち上げ